本研究の目的は、高分解能ガスクロマトグラフ炭素質量分析計の改良および解析法の作成を行ない本法の実用化を図り、分子レベルでの炭素同位体比測定の地球化学的応用の展望と意義を具体的に明かにすることにある。フィニガン社製GC/IRMS計を使用し以下の研究を行なった。 測定系の改良を行なった。さらにこれまでに採取した湖沼および海岸堆積物(湾試料、日本海、深海堆積物)中のn-アルカンのdelta^<13>C値の測定を行ない、起源について考察を行なった。その結果、東京湾堆積物中のn-アルカン(C27-C31)のdelta^<13>C値は堆積物の深さによって変動が認められた。特に、浅い深度においてはdelta^<13>C値は石油汚染と見られるdelta^<13>C値と陸上の高等植物由来のn-アルカンのdelta^<13>C値との混合と解釈されるdelta^<13>C値の分布が認められた。結果として、石油汚染由来のn-アルカンのdelta^<13>C値は-28‰と推定された。東京湾表層堆積物における全n-アルカン中の石油汚染由来のn-アルカンの占める割合は40-50%と見積もられた。石油生成メカニズム解明の一環としてわが国原油中の個別n-アルカンの炭素同位体比を測定した。測定値にはいくつかの規則性が認められた。すはわち、原油の個別n-アルカンのdelta^<13>C値は原油の熟成度と相関がある。熟成度の低い原油ではC14-C36のn-アルカンのd^<13>C値はほぼ一定を示すのに対して、熟成が進んだ原油では、長鎖のn-アルカンのdelta^<13>C値に比べて炭素鎖の小さいn-アルカンのdelta^<13>C値は重くなることが判明した。この事実は個別n-アルカンの同位体比が原油の熟成度の新しい指標となる可能性を示したものである。 個別脂肪族アルコールおよび脂肪酸の炭素同位体比の測定法の作成を検討した。GC測定において誘導体化を必要とするこれらの有機化合物のdelta^<13>C値の測定法(誘導化剤からの炭素のdelta^<13>Cの補正法)の開発を行い成功した。
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