本研究ではガスの低温マトリクス結晶を、真空紫外領域のコヒーレント光を高効率に発生させるための非線形光学素子としての可能性を調べた。本年度は昨年度のXeマトリクス結晶の波長532nmに対する非線形効果に引き続き、355nmでの非線形光学効果を測定した。この場合、非線形効果で発生が予想される光は真空紫外領域の光となるので、2次、3次の高調波を基本波と分離するために真空紫外分光器を準備した。結晶室と分光器室の境界にフッ化リチウムのレンズを設置し、両者の光学的結合と真空の分離を実現した。実験結果は同じ光学アライメントの気相の場合を基準として固相マトリクスの場合を評価した。 (1)気相Xeの355nm入射次の高調波発生。 理論どうり2次高調波は発生せず、3次高調波の発生が認められた。その強度は入射光の2.6乗に比例した。 (2)マトリクスXeの355nm入射次の高調波発生。 予想どうり3次高調波の発生が認められたが、結晶がブレイクダウンする光パワー限界が比較的小さいので、外部に取り出せる強度は気相の場合ほど強くはなかった。予想外だったのは2次高調波が非常に強く発生している事であった。その原因は発生する場所が結晶表面に限られた場合であることから、結晶の持つ中心対称性が表面では崩れているため2次の非線形効果が起きていると解釈した。さらにこの2次高調波は入射光に対して100ns程度の時定数を有することが分かった。 (3)マトリクスXeの532nm入射次の高調波発生。 3次光の発生が表面で特に強く認められた。その時間波形は355nmの2次高調波発生と同様の寿命を有した。532nmの3次光と355nmの2次光、即ち、176nmの発光に現れた時間遅れの現象は光のエネルギーが一時、結晶に蓄えられることを意味している。Xe原子にはそのエネルギーに対応する遷移が存在しないことからXe_2エキシマーの励起状態からの発光が関与しているものと考えられる。 以上、本研究では希ガス結晶が真空紫外領域の非線形光学結晶となりうることを実証し、さらに共鳴的な発光過程等を見いだした。
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