本研究では、まず励起-重項状態の亜鉛原子と水分子との間の反応性衝突について研究した。生成する水素化亜鉛や水酸ラジカルの初期量子状態分布をポンプアンドプローブ法によって決定した。水素化亜鉛はv=3までのものが検出された。初期振動状態分布は、v=0:v=1:v=2:v=3が10:13:7:2であった。振動が基底状態の水素化亜鉛の回転分布は回転量子数の増加とともに量子数30程度まで増加した。これは、回転温度に換算すると約12000Kにあたる。一方、水酸ラジカルの回転分布は約900Kのボルツマン分布で近似することができ、振動励起されたものは検出できなかった。これは、生成するOH基が、ほとんど反応に関与していないことを示している。このことから、反応は亜鉛原子がOH結合に挿入するのではなく、外からH原子を引き抜く形で進行するものと結論された。 次に、励起亜鉛原子と飽和炭化水素との反応によって生成する水素化亜鉛の初期回転状態分布の決定を行った。アルカンとしてはCH_4、C_2H_6、C_3H_8、及びC(CH_3)_4を使用した。すべてのアルカンについて初期回転分布はボルツマン分布で近似できた。C(CH_3)_4での分布は統計的に予測される分布にほぼ一致したがアルカンのサイズが小さくなるにつれて統計分布からのずれは大きくなった。これらの結果は励起状態の亜鉛原子がC-H結合へ挿入しある程度の寿命をもった中間状態を経て反応が進行していると考えることで説明できる。サイズの大きいアルカンは小さい振動数の振動モードをもっているために分子内振動緩和が相対的に速くなり生成物の内部状態分布は統計的なものに近づくと考えられる。
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