平成6年度は、励起一重項状態の亜鉛原子と水素化合物から生成する水素化亜鉛の初期振動状態分布の決定を主に行った。対象としては、メタンなどのアルカン系炭化水素のほか水素(重水素)分子を選んだ。 アルカンでは、生成する水素化亜鉛はアルカンのサイズが大きくなるにしたがって振動励起されにくくなり、ネオペンタンでは統計的に予測されるプライオール分布にほぼ一致した。これらの結果と先に得られた回転状態分布に関する結果から、励起状態の亜鉛原子が炭化水素のC-H結合へ挿入し、ある程度の寿命をもった中間状態を経て反応が進行していると結論された。サイズの大きいアルカンでは小さい振動数の振動モードを持っているために分子内振動緩和が相対的に速くなり生成物の内部状態分布が統計的なものに近づくと考えられる。またZnHの相対収率がすべてのアルカンでほぼ同じであったことからC-C結合が切れる過程はあまり重要ではない。 水素分子との反応では、一般に金属原子はH-H結合に挿入すると考えられている。しかし、励起一重項状態の亜鉛に関しては直接的な証拠はこれまでなかった。今回、水素(重水素)から生成する水素化亜鉛の初期振動状態分布の測定を行った。ZnH、ZnDともにあまり振動励起されていなかった。また、水素から生成する水素化亜鉛の収率はメタンの場合の半分であった。これは、生成する水素化亜鉛が非常に高く回転励起されており、回転解離による三体解離過程が存在することを示唆している。これらのことは、反応が挿入型であり、遷移状態が曲がった形をしていることする反応機構と符合している。
|