本研究においては、最低励起一重項状態の亜鉛原子と水などの水素化物との反応によって生成する水素化亜鉛や水酸ラジカルの初期状態分布を決定を中心課題に据えた。これらの初期状態分布の解析から反応過程の中間状態についての情報を得た。 水の場合、水酸化亜鉛は高く回転励起されており、分布は回転量子数の増加とともに単調に増加した。振動状態分布は、v=1にピークをもち、v=3までが観測された。一方、水酸ラジカルはあまり回転励起されておらず、また振動励起されたものは検出されなかった。これは、水のOH基の一つが、ほとんど反応に関与していないことを示している。このことから、反応は亜鉛原子がH原子を引き抜く形で進行するものと結論された。 アルカンでは、生成する水素化亜鉛はアルカンのサイズが大きくなるにしたがって振動励起されにくくなり、ネオペンタンでは統計的に予測されるプライオール分布にほぼ一致した。これらの結果と先に得られた回転状態分布に関する結果から、励起状態の亜鉛原子が炭化水素のC-H結合へ挿入し、ある程度の寿命をもった中間状態を経て反応が進行していると考えることで説明できる。 励起金属原子と水素の反応は、金属原子がH-H結合に挿入して進行すると考えられている。今回、水素(重水素)から生成するZnH、ZnDの振動状態分布の測定を行い、ともにあまり振動励起されないことが判明した。また、水素化亜鉛の収率はメタンの場合の半分であった。これは、生成する水素化亜鉛が高く回転励起されており、回転解離による三体解離過程が存在することを示唆している。
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