本研究は、溶媒和クラスターの構造を分光学的に決定して溶媒和クラスター内の反応と溶媒分子の配置の関係を明らかにすることを目的としている。対象分子には、極性溶媒中で一方のアントラセン基からもう一方のアントラセン基への電荷移動を起こすビアントラセン(BA)を選んだ。 まずBAとアルゴン、水、メタンといったクラスターについて、時間相関単一光子計測法によって電子励起状態の回転コヒーレンスから回転定数の決定を試みたところ、BA単体の場合とは違って回転周期に対応するコヒーレンスシグナルは得られなかった。詳細な実験の結果、その理由は電子励起状態での振動エネルギー再分配(アルゴン、メタン)や電子状態の変化(水)のために回転準位間のコヒーレンスが失われたためであることが明らかになった。ポンプ-プローブ法による回転コヒーレンス分光では電子基底状態のコヒーレンスからも回転定数が測定できるのでこのような系にも適用できる。 こうした観点からポンプ-プローブ法の実験システムの立ち上げを並行して行った。本補助金の大部分はそのための大型光学遅延ステージ及び光学素子の購入に充てられた。精密な光路合わせや最適な観測条件の設定について試行錯誤を繰り返した結果、BA単体についてはこの方法によっても回転コヒーレンスシグナルを得ることに成功した。現在上に挙げたクラスターの実験が進行中である。この方法はポンプ光とプローブ光の独立な蛍光シグナルの単純な和シグナルにおける、ポンプ光とプローブ光の二重共鳴による蛍光シグナルの減少を観測する方法なのでSN比が高くないという欠点を持っている。今後は非線形光学過程の利用によってこの欠点を解消して、精度の高いシグナルを得ることを計画している。
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