包接水和物の熱力学的安定性は、これまで理想固溶体理論に由来するvan der WaalsとPlatteeuw(vdWP)による理論によって説明されてきた。この理論は多くの包接水和物の相平衡を推測するのに用いられてきたが、実際の応用に際しては常に経験パラメーターが必要とされ、また、多くの種類の包接水和物に対して、実験と理論計算から求めた解離圧にはかなり大きな差があった。本研究の目的は、様々なゲスト分子を含む包接水和物の熱力学的安定性と相平衡を、分子間の相互作用のみから、より正確に予想することである。そこで、本研究は、(1)従来の理論に課されてきた仮定を取り除いた一般化されたvdWP理論の定式化、(2)球対称ゲスト分子の包接水和物の分子間相互作用ポテンシャルを用いた実在の包接水和物の安定性の評価、(3)非球対称分子への拡張という三段階から成る。 従来のvdWP理論ではゲスト分子は空洞のなかに閉じ込められて、平衡位置に静止した水分子との相互作用が安定性の唯一の原因として取り扱われてきた。しかし、ゲスト分子の存在による格子の歪による影響や、水の格子振動とゲスト分子の相関は大きく、これを無視してきたことに実験との不一致の原因がある。そこでまず、振動解析によりこれまで無視されてきた水の格子振動とゲスト分子のカップリングを取入れて生の成自由エネルギーの評価できるように一般化されたvdWP理論の定式化を行った。
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