液相系における化学反応に対する磁場効果は、ラジカル対機構では三重項+1(T+1)及びT-1準位にあるラジカル対がT0準位にあるラジカル対とは磁場中で異なったふるまいをすることが原因であると説明する。そこで電子スピンの初期分極が極めて大きい系、つまり生成時点でT+1及びT-1準位とT0準位の存在量が大きく異なっている系に対して精密な磁場効果の測定を行い、各準位にあるラジカル対の挙動を分離することを試みた。大きな磁場効果を発現するためにドデジル硫酸ナトリウムミセル溶液中の反応とし、強い初期分極を有する系として2-メチルナフトキノンを、対照系としてほとんど初期分極を示さないベンゾフェノンの光化学反応を比較測定した。本研究費により、高精度定電流電源と高精度デジタル式ガウスメーターを導入し、0^〜1テスラの磁場にわたり、12.5ミリテスラごとに磁場効果を測定できるようにした。両者の磁場依存性は、見かけ上はかなり異なるが、散逸ラジカル量を基準に比較すると大域的挙動は極めてよく一致する事がわかった。これは両者に作用している磁場効果の機構自身が同一であることによると考えられる。しかしながら中間磁場では両者にわずかながら差異が見られる。これは初期分極を有する系では励起三重項状態からラジカル対へ分極が移動する際、外部磁場の強弱で三重項各副準位への分布状況が変化するので分極を持たない系とは異なる磁場依存性を持つという、期待した結果に対応するとも考えられる。しかし、差異が極めて小さいため反応を精密に解析し、反応速度に基づいた評価が必要であると考え、現在研究を進めている。
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