シグマ結合を経由する分子内電子移動の可能性と効率を検討するため、A-(CH_2)_n-D型の構造を持った3種の同族列を合成した。Aは電子受容基でp-O_2NC_6H_4Oを採用し、Dは電子供与基でアニリノ(1)、m-あるいはp-Me_2NC_6H_4O(2あるいは3)である。また1の類似体としてシクロヘキサンの1位と4位にAとDを持ったシスおよびトランス2種の異性体(cis-4およびtrans-4)を合成した。電子移動の量子収率はアセトニトリル中で受容基をその吸収極大に近い313nmで励起し、生じたラジカルイオン対のスペクトル強度から相対値を求めた。。 1(n=2)の量子収率を1.0とするとcis-4とrans-4値は1.9と1.5であり、明らかにシグマ結合経由で効率よく電子移動が起こることがわかる。ちなみに4に相当する同族体1(n=4)の値は1.1で、この同族体ではベンゼン環同士の接触による空間経由の電子移動過程の確率が極めて小さいことから、この値のかなりの部分を結合経由電子移動が占めていると思われる。同族列2と3では、どちらもn=2>3>4>5>6という傾向を示した。2と3を比較すると、同じメチレン鎖の同族体同士では2<3の関係がみられ、メタ置換体よりもパラ置換体の方が受容体としてすぐれていることを示している。また3では3(n=2)の値が1.8と大きく、p-ジメチルアミノフェノキシル基はアニリノ基よりもすぐれた受容体であることも示している。 これらの結果を光反応の量子収率と関連して考察すると、1の転移反応ではn≧4で電子移動が反応の開始につながること、2と3の分子内酸化還元反応では電子移動は必ずしも反応には有利でないことが結論として得られた。
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