今年度はテトラフェニルポルフィリン(TPP)およびテトラメシチルポルフィリン(TMP)のコバルト(III)錯体を用いて軸配位子の固定化に伴うポルフィリン環の非平面化を検討した。鉄をコバルトに換えることにり、軸配位子の解離および内部回転のいずれも、より強く束縛されるようになった。これはコバルト-窒素結合が鉄-窒素結合より強いこと、そのため結合距離が短くなることによると考えられる。鉄錯体の場合には極めて不安定であったビス(2-メチルベンズイミダゾール)錯体もコバルト錯体では安定に単離できた。UV-Visスペクトルでは、鉄錯体と同様に軸配位子の立体障害の増加に伴いSoret帯の顕著な長波長シフトが観測された。コバルト錯体で最も顕著なことは、(TPP)Co(2-MeBzIm)_2^+において、2-メチルベンズイミダゾールの回転が束縛されることである。これは2-メチルベンズイミダゾールとメソ位のフェニル基との強い立体反発によりポルフィリン環が大きくS_4ruffle構造に変形し、その cavityの中にイミダゾール環が固定されているものと考えられる。対応する(TPP)Fe(2-MeBzIm)_2^+錯体で、このような現象が見られなかったのは、軸配位子の速い解離のためと思われる。現在、安定なコバルト錯体を用い、上記の錯体のポルフィリン環がどの程度非平面化しているかをX線結晶解析により検討している。
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