テトラフェニルポルフィリン(TPP)およびテトラメシチルポルフィリン(TMP)の鉄(III)錯体に種々のイミダゾールを加えることにより低スピン鉄(III)ビスイミダゾール錯体を合成した。2位にアルキルを有するイミダゾールがTMP錯体に結合すると、イミダゾールと鉄との結合の回りの回転がNMR的に静止し、C_2対称の錯体が生成した。これらの錯体のESRスペクトルは通常の低スピン錯体とは異なりg値が3以上のシグナルを示した。また、UV-Visスペクトルでは、軸配位子の立体障害の増加に伴いSoret帯の顕著な長波長シフトが観測された。また、ピロールプロトンの化学シフトの温度依存性も、軸配位子のかさ高さの増大に伴い低下した。これらの事実はかさ高い軸配位子の配位に伴いポルフィリン環が非平面に歪んだためと考えた。 そこで、立体障害の極めて大きな2-メチルベンズイミダゾールを軸配位子に用いて配位に伴うポルフィリン環の非平面性を検討した。その結果、TMP系錯体では予想される低スピンビス付加体が生成したが、TPP系錯体では前例の無い高スピンのビス付加体が生成した。これらの錯体のNMR常磁性シフト値やUV-Visの大きな長波長シフトから、ビス(2-メチルベンズイミダゾール)錯体ではポルフィリン環が大きく歪んでいることが実証された。また、この非平面性のためTPP系でも2-メチルベンズイミダゾールの回転は束縛されていた。現在、鉄錯体よりも安定なコバルト錯体を用い、上記の錯体のポルフィリン環がどの程度非平面化しているかをX線結晶解析により検討している。
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