本科学研究費補助金により、当該年度において以下の成果を得た。 1)研究課題のうち最も重要なものであったジアリールエタナールのカチオンラジカルの反応性について、極めて興味深い知見を得た。すなわち、アリール基のパラ位にメトキシ基を持つジ(4-メトキシフェニル)エタノールは、2、4、6-トリフェニルピリリウム塩増感により発生させた場合は、C-C結合開裂をおこして、相当するカルボカチオンであるジ(4-メトキシフェニル)メチルカチオンを与えるが、これとまったく対照的に、9、10-ジシアノアントラセンを増感剤として発生させたときは、脱プロトン化をおこし、相当するベンジル型ラジカルを生ずることを見いだした。これらの知見は、レーザーフラッシュホトリシス法および生成物の解析という、2つの方法を同時に活用することにより得られたものであると同時に、カルボニル化合物のカチオンラジカルが、増感剤の種類により異なる反応性を示すことを実証した最初の例である。 2)1)の結果に基づき更に研究を発展させ、メトキシ基以外の置換基をもつエタナールについてもレーザーフラッシュホトリシス法および窒素下での生成物の解析を行い、ピリリウム塩がこれらのカルボニル化合物のカチオンラジカルを発生させるのにふさわしい増感剤であることを実証した。 3)更に、関連化合物として、テトラフェニルエタノン誘導体のカチオンラジカルを種々の電子受容性増感剤の存在下で発生させ、そのC-C結合開裂の機構を明らかにした。
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