糖蛋白質による不凍化現象の機構を調べるため、低温における溶質と水との相互作用に関する基礎的な知見を得ることを目的として、種々の低分子、高分子水溶液の体積挙動を検討した。また、簡単な融点測定装置を作製し、合成高分子による凝固点降下を測定し、不凍糖蛋白質による効果と比較した。 1.各種のアルコール、酢酸エステル、アミノ酸誘導体について希薄水溶液の密度と音速を測定した。それらの部分モル容積と部分モル断熱圧縮を算出し、その温度依存性から疎水性水和と親水性水和について議論した。比較的疎水的な酢酸エステルに関しては、その水溶液物性に取り立てて異常な挙動は観察されず、アルコールやアミン等の水溶液で知れれている低温での特徴的な体積挙動は、従来言われていた疎水性水和ではなく、むしろ親水基の影響が大きいことを明らかにした。 2.高分子界面活性剤であるポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドのブロック共重合体の希薄水溶液について、分子内ミセル形成とそれに伴う高分子鎖の形態転移を、粘度、密度および音速の測定から検討した。温度上昇に伴い、共重合比が7:3の試料では30℃前後で分子内のプロピレンオキシド鎖部分でミセル様の会合が生じ、そのため水への溶解性が減少し、高分子の広がりは急激に低下する。また、それに対応して、溶質-水間相互作用が減少し、その分溶質-溶質間相互作用が大きくなるので、部分比容積や部分比断熱圧縮も急速に増大する。 3.数種の合成高分子水溶液の凝固点降下を測定した。束一性から予想されるよりは遥かに大きな凝固点降下が観察されたが、不凍糖蛋白質によるきわめて大きな効果ほどではない。分子量依存性の結果からも、合成高分子による凝固点降下は糖蛋白質の不凍効果とは別の機構によるものと考えられる。高分子水溶液の凝固点降下に関する研究例は少なく、従来報告されている結果についても測定方法など再検討しなければならないように思える。
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