1.まず、非特異的な蛍光プローブであるピレン及びピレンスルホン酸イオンがブタの心筋から抽出したミオシン分子と相互作用したとき、スペクトル的にどのような変化を呈するかについて検討した。その結果は、予備実験で既に得ていたニワトリ骨格筋ミオシンに対する場合と本質的に同じであった。即ち、pH7.0の緩衝溶液中でピレンの蛍光はミオシンと相互作用してその強度を増大し振電帯の比が変化する。一方ピレンスルホン酸は蛍光スペクトルを殆ど全く変化させずにむしろ僅かに強度が減少した。 2.ヨウ素イオンによる蛍光消光実験から、蛍光のプローブの分布を検討した。その結果、中性のピレンは巨大分子ミオシンの表面近傍だけでなく、より疎水性の大きなミオシン内部に5割以上結合することが判った。他方、アニオン性のピレンスルホン酸はミオシンの表面近傍のみに結着することが判った。尚、変成が進むと疎水性領域が増加することが推定された。 3.蛍光のスペクトル変化と蛍光の寿命変化を利用してピレンとミオシン間の結合定数の推定をpH7.0の緩衝溶液中で行った。蛍光強度変化の測定から推定した値と、これとは独立に寿命変化から推定した値(5×10^5M^<-1>)とが良く一致した。ピレンスルホン酸イオンの場合には蛍光強度変化が僅かであるため精度良く結合定数を決定できなかったが、ピレンの場合より1桁大きいことが判明した。これにはピレンスルホン酸イオンの負電荷とミオシン表面の正電荷との静電相互作用が寄与しているためと結論された。
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