本研究では、強誘電性液晶分子における光学活性鎖のコンホメーション特性を^2H-NMR法を用いて解析し、さらに分子の一次構造と巨視的集合状態との相関を分子軌道法計算(MO)および分子動力学計算(MD)により解析して、強誘電性の発現メカニズムを分子レベルで明らかにした。 1.FLC分子の光学活性アルキル末端鎖を選択的に重水素化した試料を合成し、^2H-NMR測定を行なって各セグメントの配向秩序度を決定するともに、分子軌道法計算を行ってそのコンホメーション特性を明らかにした。 2.反強誘電性液晶分子MHPOBCを対象に、分子軌道法計算(MO)および分子動力学計算(MD)を行って、孤立分子状態および結晶状態における光学活性鎖のコンホメーション特性を明らかにした。これらの計算結果は、光学活性アルキル鎖が分子軸に対して直角に屈曲するというX線解析の結果を良好に再現しており、この構造がα-置換の不斉鎖をもつFLC分子に共通な構造であることを結論した。 2.また、モデル液晶分子(ビーズおよびGay-Bernモデル分子)を用いるモンテカルロ・シミュレーション解析(MC)を行い、液晶相における自発秩序の形成メカニズムを明らかにする一連の研究成果を得た。 これら本研究で得られた成果は、液晶における構造進化のhierarchy(一次構造→コンホメーション→配向特性→高次構造の発現→…)を系統的に理解することを可能にするものであり、基礎研究上の意義はもとより、液晶表示ディスプレイの機能向上にもつながる大きな社会的意義をもつものである。
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