昨年度、我々はジフェニルグリオキシマートNi、Pd、Pt錯体に8本の長鎖アルコキシ基を導入した。そして、これらが広範囲な温度領域でディスコティックヘキサゴナルディスオーダードカラムナ-(D_<hd>)相をもつことを明かにしている。一方、城谷らによって、長鎖を付与していないジフェニルグリオキシマートPt錯体は、大気圧下で赤茶色、0.69GPaで緑色を呈したと報告されている。ところが、驚くべきことに本長鎖置換Pt錯体は、大気圧下ですでに緑色を呈しており、長鎖のファスナ-効果によって分子が締め付けられていることがわかる。そこで、本年度は長鎖アルコキシ基を付与したNi、Pd、Pt錯体に見かけ上どのくらい加圧されたことになるか詳細に調べた。 Ni、Pd、Pt錯体のフィルム状態における加熱吸収スペクトル測定を基に、様々な温度におけるd-pバンドの波長を縦軸に横軸には温度をとりプロットした。その結果、それぞれの錯体において直線関係を得ることができた。1℃温度が上がったときのd-pバンドのblue shift率は、Pt錯体が15.6cm^<-1>/℃、Pd錯体が10.1cm^<-1>/℃、Ni錯体が6.07cm^<-1>/℃という値を得た。次に、「見かけの圧力」を計算しこれを縦軸に横軸には温度をとりプロットした。その結果、温度と圧力の間に直線関係が得られた。これらの傾きを計算したところ、Ni錯体には-4.85×10^<-3>、Pd錯体には、-5.15×10^<-3>、Pt錯体には、-5.10×10^<-3>という値を得、これらの錯体は1℃温度が上がると金属種に関係なく約5×10^<-3>GPaの圧力から解放されることになることがわっかた。 このように、「目に見えるファスナ-効果」はNi、Pd、Ptの順に効果的に作用し、劇的なサーモクロミズムが観察されることを明らかにした。これらの研究成果は、平成7年3月末に京都で開かれる第69回日本化学会春期年会にて発表予定である。また、J.Amer.Chem.Soc誌に投稿準備中である。
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