結晶中では分子が規則的に配列しているにもかかわらず、結晶中の反応は選択的に進行しない場合が多い。この場合、適当なホスト化合物を使用して分子配列制御すれば反応を制御できるものと考えられる。例えば、光学活性ホストを使用すれば不斉選択的反応を行うことができるであろう。 光学活性ホストとプロキラルゲストとの包接結晶中での反応制御を利用して、光学活性体を得る一般的方法を開発するのが目的である。 キラルホスト化合物と対称な分子を自己組織化させて包接結晶を形成させると、後者がキラルに配列する。この包接結晶中に固相で光照射をしてキラリティを凍結させれば、キラルな生成物が得られる。この考えに基づいて固相光反応を検討した。 光学活性ホストは天然型酒石酸から誘導したものを主に用いた。光学活性ホストと対称なゲスト分子との包接結晶を再結晶法により調製した。粉末にした包接結晶を水に分散させ、室温で撹拌下100w高圧水銀ランプで数時間光照射した。光反応生成物はシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより単離し、光学純度はHPLCで決定した。例えば、光学活性ホストとN-アリル-3-オキソ-1-シクロヘキセンカルボキシアミドとの2:1包接結晶の粉末を水に分散させ、室温で5時間光照射すると、100%eeの(-)-[2+2]光反応生成物が61%の収率で得られた。 また、アキラルなゲスト分子を光学活性ホストに固相で包接化させ、この包接結晶に光照射すると光学活性な生成物が得られた。すなわち、ホストとゲスト固相で混合すると包接化が起こり、ホストーゲスト錯体が生成した。この錯体結晶に光照射すると、光学活性な反応物が得られた。例えば、α-オキソアミドと光学活性なホストを固相で1時間混合した。包接化はIRスペクトルで追跡した。この包接結晶の粉末を水に分散させ、室温で5時間光照射すると、93%eeの(+)-β-ラクタム誘導体が39%の収率で得られた。
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