前年度は、芳香族ハロゲン化物と亜鉛粉末を直接反応させる事を試み、超音波による活性化でオルト位に電子吸引基を持つアリール亜鉛化合物が容易に合成出来る事を見出した.また、得られたアリール亜鉛化合物をパラジウム触媒の存在下アリールハライドとのクロスカップリングによりビアリール類を導いた. 本年はこの反応をオルト-ジヨードベンゼンに拡張し、オルト-フェニレンジ亜鉛化合物を得る事に初めて成功した.一般に、オルト-フェニレンジメタル化合物は、隣接位に形式電荷を有する特異な構造のため、理論的、合成的に興味が持たれながら、その簡便な合成法がなく、特に、実験的検討が殆どなされていない.そこで、得られたオルト-フェニレンジ亜鉛化合物を塩化トリメチル錫との反応により、既知物質であるオルト-フェニレンジ錫化合物に変換し、先ず、その構造確認の後、パラジウム触媒を用いるアリールハライド、アシルハライドとのクロスカップリングを検討し、収率よく対称型のオルト-テルフェニル類及び1、2-ジアシルベンゼンを得た.次に、対応する非対称型化合物を合成するため、アリールハライドやアシルハライドとの逐次クロスカップリングを検討しパラジウム触媒の配位子としてトリス(2、4、6-トリメトキシフェニル)ホスフィンを用いると、アシルハライドによるモノアシル化が達成できる事を明らかにした. これらの実験中、アリール亜鉛化合物にN-クロロコハク酸イミドを作用させると、原料の芳香族ハロゲン化物由来のハロゲン求核種による形式的求電子置換反応が進行する事を認めた.これを、求核種としてのチオシアナ-トイオンやジチオカルバメートイオンに展開し、各種の有機亜鉛化合物から対応するチオシアナ-トやジチオカルバメートを合成する経路を開拓した.
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