1 赤外過渡吸収スペクトル装置の確立 グローバーを赤外光源とし、これを回折格子により分光して得た単色赤外光をMCT素子で検知するモニター系と、Nd:YAGレーザーの第3高調波(355nm)の10mJ程度のパルス(約7ns)による試料室前面からの励起系を組み合わせ、安価で信頼性の高い赤外過渡吸収スペクトル装置を確立できた。本研究では、試料が光反応の結果、変化消費されて行くので、すべての励起パルスごとに新しい試料が試料室に充たされるような試料供給系の工夫も必須の要件であった。 2 赤外過渡吸収スペクトルでの量子収率測定のスタンダードの確立 紫外可視領域での過渡吸収スペクトルにおける量子収率の測定は、励起三重項ベンゾフェノンの生成の量子収率とその分子吸光係数を用いた光量測定に基づく方法が確立されている。しかし、赤外領域ではこのようなスタンダードが無い。そこでジアゾナフトキノンのインデンカルボン酸への光反応の中間体であるケテンの2135波数での分子吸光係数を決定し、これを赤外領域での過渡吸収スペクトルにおけるスタンダードとして確立することができた。 3 C-H光活性化を起こすヴァスカ型錯体ClRhP_2(CO)の光反応初期過程の解明 Pとしてトリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィンの錯体について、その光反応初期過程が量子収率0.1程度の脱CO反応であること、生じたClRhP_2(CO)に攻撃して複核中間体を与える反応が大勢を占めることが明らかになった。文献では上記のホスフィン類のヴァスカ型錯体がC-H光活性化を起こすことが報告されているが、その量子収率についての記載はない。反応は痕跡程度であろう。トリメチルホスフィンの錯体は効率良くC-H光活性化を起こすことが報告されているのでこの錯体について今後測定を試みたい。
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