研究概要 |
研究計画にしたがって、まず最初に置換アニリンMe_3Si^+に対する塩基性度をFT-ICRを使用して決定した。p-OMe基からm-Cl基およびm-F基までの限られた範囲ではあるが、プロトンに対する塩基性度の置換基効果と比較すると全体として傾き0.9の直線相関が得られた。これは、Me_3Si^+-アニリンの付加体イオンの安定性に及ぼす置換基の極性効果が両者でほぼ等しいことを示しており、Si-N結合の共有結合性がH-N結合と同程度であることを示唆する。これは、先に検討した置換アセトフェノンのMe_3Si^+に対する塩基性度とプロトン塩基性度の比較から導かれた結論に一致する。この事実は、限られたデータに基づいて導かれた従来の結論、つまりMe_3Si^+-塩基付加体イオンにおけるSi-N結合には共有結合性と共に静電的相互作用の寄与が重要であるとした解釈に疑義を投げ掛けるものである。また、プロトンに対する塩基性度との比較においてMe基およびCl基は直線関係から一方的なずれが観測された。ところが、アニリンのMe_3Si^+塩基性度のN,N-ジメチルアニリンのプロトン塩基性度に対するプロットでは全ての置換基を含めてよい直線関係が得られた。Me基およびCl基のずれはこれらの置換基のcharge induced dipole stabilizationに起因すると解釈でき、Me_3Si^+-アニリンの付加体イオンの安定化に対するベンゼン環上の置換基のpolarizability効果の寄与の低下が示唆される。これは、N原子に結合しているMe_3Si基がN,N-ジメチルアニリニウムイオンのMe基と同じくMe_3Si付加体イオンを安定化するためと考えられる。
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