(1)ET-ICRを使用してアニリン誘導体のMe_3Si^+に対する塩基性度を決定した。プロトンに対する塩基性度の置換基効果と比較すると全体として傾き0.9の直線相関が得られ、Me_3Si^+-アニリンの付加体イオンの安定性に及ぼす置換基の極性効果は両者でほぼ等しいことが明らかになった。Si^+-N結合はH^+-N結合と同程度の共有結合性を有することが示唆された。この結果は、置換アセトフェノンのMe_3Si^+に対する塩基性度の置換基効果の解析結果に一致する。一方、炭素塩基であるスチレン誘導体のMe_3Si^+に対する塩基性度に及ぼす置換基効果はρ値が1/2.5に減少するだけでなく、共鳴効果の寄与も著しく低下し、付加共鳴効果のないσ^oで相関された。この置換基効果挙動はH^+塩基性度とは大きく異なり、Me_3Si^+-スチレン付加体イオンの構造はβ-炭素にMe_3Si^+が付加したopen構造のイオンではなく、C=C結合に架橋した非古典構造であるという結論に導く。 (2)置換ニトロベンゼン、置換ベンズアルデヒド、置換アセトフェノン、置換メチルベンゾエ-ト、および置換ベンゾニトリルの電子親和力を電子移動平衡法により決定し、これらのラジカルアニオンの熱力学的安定性におよぼす置換基効果をLArSR式を用いて解析した。ρ値の系による変化は小さく、ベンゾニトリル系以外では等しいことが明らかになった。一方、共鳴要求度は母体ラジカルアニオンの不安定化とともに連続的に増大し、両者の間には優れた直線関係が見出された。この共鳴要求度の系依存性は偶電子アニオン系であるフェノキシド、アニリドおよびベンジルアニオンの気相安定性の置換基効果の挙動に一致し、奇電子アニオンの安定化における電荷のπ-非局在化の機構が偶電子アニオンと同じであることが示唆される。つまり、芳香族化合物のラジカルアニオンのSOMOは偶電子アニオンのHOMOに類似した特性を有することが明らかになった。
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