研究概要 |
申請者は、温度感応性高分子を“相転移する固相溶媒"として用いる微量環境汚染物質の分離濃縮法の構築を意図している。本研究では、温度変化を感受して、固-液の相転移する温度感応性高分子:ポリビニールメチルエーテル(以下PVME)あるいはポリ(N-イソプロLルアクリルアミド)を抽出媒体として、大気、環境水中の多環芳香族炭化水素(以下PAHs)を簡易迅速に捕集・濃縮し、高感度に蛍光光度定量する方法を確立した。またPVMEによる捕集機構を探り、高性能な温度感応性高分子のデザインをも試みた。以下にその詳細を述べる。 1.定量方法の確立:大気試料の場合には、PVME(0.035%)水溶液を吸収液として通気・捕集し、また水試料では、PVME水溶液を加えた。これに硫酸(1mM)を添加後、53℃に加温し振とうすると、PVMEは、PAHsを取り込んで凝集し器壁に付着した。傾斜して液を除去し、付着物を極少量のアセトニトリルに溶解し,蛍光検出-HPLC(Inertsil ODS-2カラム)に注入し,各々に適した波長においてPAHsの蛍光強度を測定した。 2.定量結果:ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(b)フルオランテン、ピレン、など米国環境保護局及びWHOによって提示された16種類のPAHsが0.6pmo1/testまで測定出来た。水溶液として300倍まで簡易迅速な分離・濃縮が可能である。喫煙室の空気、自動車排気ガス、水中などの pptオーダーのPAHsを、簡易迅速に定量できた。 3.捕集機構の解明と高性能温度感応性高分子のデザイン:NMR測定の知見から、PAHsはPVMEに疎水性相互作用によって捕集されていると推測された。さらに分離・濃縮の場として優れた機能を有する温度感応性高分子をデザインするために、官能基シクロデキストリンの導入などを検討した。 以上、環境汚染の恐れのある有機溶媒抽出を用いずに、pptレベルの環境汚染物質を簡易迅速に分離・濃縮し、測定できる本法は、さらに広い範囲における応用性が期待される。
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