高等植物のミトコンドリアゲノムは(1)複雑なゲノム構造を示す。(2)外来DNA断片(Promiscuous DNA)を含む。(3)高頻度のRNAエデイテイングがおこることを特徴とする。高等植物ミトコンドリアゲノムが含むプロミスカスDNAの遺伝的役割を探ることを目的とした。コムギのミトコンドリアゲノムに転移した葉緑体遺伝子の転移機構と転移先ゲノム内での保持機構を解析するため、葉緑体遺伝子のミトコンドリアゲノムへの転移を体系的に調べた。全塩基配列が決定されたイネ葉緑体DNAから機能が判明している70遺伝子を含む55の特異的プローブを作成した。これらのプローブをパンコムギミトコンドリアDNAのマスターサークルを含む14種類のコスミドクローンとサザンハイブリダイゼーションを行い、転移の有無を調べた。用いた55プローブのうち、12プローブ(20遺伝子)で転移が確認された。リボゾームタンパク質遺伝子の転移が比較的高頻度でみられたが、葉緑体の機能で特に転移に関する差異はみられない。転移断片をコスミドクローンを用い、コムギmtDNAの物理地図上にマッピングした。物理地図上、葉緑体遺伝子断片が集積するホットスポットおよび転移がほとんどみられない領域が存在することが判明した。ミトコンドリアに転移した葉緑体に由来するプロミスカスDNAの長さを制限酵素断片から推定してみると、プロミスカスDNAは比較的短い断片からなり、ミトコンドリアマスターサークルDNAの約5%に相当した。トランススプライスされる葉緑体遺伝子の一方のみが転移していたこと、転移したDNA断片が介在配列を含んでいたことから、転移の機構としてはDNAを介在したものであると考えられる。転移が確かめられた葉緑体遺伝子に関して、ノーザンハイブリダイゼーションで転写活性を調べてみたが、ミトコンドリア独自の転写パターンは得られなかった。
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