土壌細菌Agrobacterium tumefaciensは多くの植物に根頭癌腫病を引き起こす。この植物腫瘍は、培地においては異状な形態を示すことも多い。本研究では、腫瘍、奇型腫においては細菌の生長、分化に関与する遺伝子の発現が、正常な組織に比べ、促進あるいは抑制されているのではないかと考え、これを分離することを目的とする。オーキシン、サイトカイニン合成、およびそれらの働きを促進する6b遺伝子を用いてタバコの未分化茎葉分化腫瘍を作った。これらの組織からcDNAを作成し、ディファレンシャルハイブリダイゼーション法、およびディファンレンシャルディスプレイ法により各組織特異的に発現している遺伝子を分離した。茎葉分化組織で発現量の多いものはニンジンの14KD蛋白、タバコモザイクウイルスの感染に伴なって発現されるSAR8.2、ヒートショク蛋白、クロロフィルアポ蛋白、クロロプラストRNA結合蛋白のホモログであった。未分化腫瘍で発現量の多いものは、タバコキチナーゼ、アラビドプシスのリボソーム蛋白、ライ麦のアレルゲンLoIPI、および未知のクローン1-22Aであった。特に14KD蛋白遺伝子はニンジンの再分化に伴なって一過的に発現が促進されることが報告されている。そこで、これを強いプロモーターであるCaMV35下流にアンチセンスになるようにクローン化し、タバコに再導入したが、得られた植物体に形態的な影響は見られなかった。しかし、傷により発現が誘導されることを見いだしストレスとの関連が示唆された。またクロロプラスト形成に関与する遺伝子が分離されたことにより、細胞器官の発達が植物全体の組織分化に関与する可能性を考えるに至った。
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