モンキチョウの雌に生じる翅の色彩2型の適応的意義を明らかにするため、両翅型の羽化直後の蔵卵数と、野外に生息する両翅型の雌に注入されていた精包数や保有蔵卵数の比較を行なった。飼育して羽化させた雌の場合、蔵卵数は両翅型に有意な差はなく、両翅型とも成熟卵をもっていなかった。 長野県北安曇郡白馬村にて捕獲した雌成虫は、個体番号や捕獲場所、捕獲時間、翅型、齢クラスを記録した後、直ちに腹部をピンセットで切り取ってアルコールで固定し、三角紙に入れ持ち帰った。固定した腹部は実験室に持ち帰った後、直ちに解剖し、交尾嚢を摘出した。その後、交尾嚢内部の精包を開口部に近い方から順番に取り出し、それらの数を調べた。 捕獲した白色翅型雌と黄色翅型雌は一生涯の間にそれぞれ2.2回、1.7回交尾し、白色翅型雌の方が黄色翅型雌より多く交尾しているといえた。野外の雌のもっていた未熟卵数は、精包を何個もっていようとも、各齢クラスで両翅型間に有意な差はみられなかった。両翅型とも、齢クラスの進行とともに未熟卵数は減少する傾向がみられた。老齢の雌の交尾嚢内に1個の精包をもつ雌と羽化直後の雌の保有している未熟卵数の差は400〜550個と推定され、この値は、羽化してから新たな卵成熟がないと仮定した場合、実際の産下卵数に近いと考えられる。複数回交尾した老齢の雌と、羽化した直後の雌の保有していた未熟卵数の差は500〜650個と推定された。産下卵数は交尾嚢内に精包をもっている数が多いほど増加する傾向を示している。 雌を捕獲した時間帯別に分けて、翅型別に保有成熟卵数を調べたところ、若齢の雌でも老齢の雌においても、黄色翅型雌が10:00〜12:00の間に主として産卵を行ない、白色翅型雌は12:00〜14:00の間に産卵を行なっていた。すなわち黄色翅型雌は白色翅型雌より1〜2時間ほど早く産卵を開始していたと考えられる。
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