モンキチョウの雌に生じる翅の色彩2型の適応的意義を明らかにするため、本年度は、交尾中断実験と、野外の雄の求愛行動の補完調査を行なった。 一般に、探雌飛翔中のモンキチョウの雄は、しばしば、交尾中のペアに興味を示し、その回りを飛翔したり、ペアの隣やペアの翅に着陸したりと、あたかも交尾を邪魔するかのような行動を示す。このような「邪魔」の入らない室内では、羽化後1日齢のモンキチョウの雌雄の交尾は約45分で終了した。しかし、長野県北安曇群白馬村で、頻繁に「邪魔」が入った場合の交尾時間を計測したところ、処女雌に対する交尾時間は4時間を超える場合すら生じた。本実験に用いた雌は、すべて、交尾終了(または中断)後、直ちに腹部をピンセットで切り取ってアルコールで固定し、実験室に持ち帰って解剖し、交尾襄を摘出、精包の体積を測定している。野外の雄との交尾を、途中で中断し、雌の交尾襄内を調べたところ、精包の注入は交尾開始後1時間以内に終了していることがわかった。交尾時間の長さと注入された精包の大きさに相関関係はなかった。ただし、交尾相手の雄が老齢であった場合、注入された精包は小さかった。野外において、交尾の「邪魔」をする探雌飛翔中の雄は、交尾相手が老齢の雄であった場合に激しく「邪魔」を行なった。白色翅型雌との交尾態の方が黄色翅型雌とのそれよりも「邪魔」は激しかった。この時、「邪魔」された老齢雄はとまる位置を変える程度で、なんら積極的な反応は示さなかった。交尾している雌は「邪魔」する雄を無視した。「邪魔」する雄による雌の乗っ取りが観察された。また、老齢雄との交尾終了後、直ちに「邪魔」する雄との再交尾を行なった雌も観察できた。野外でも捕獲した既交尾雌の約15%が再交尾に応じた。ただし、処女雌とは異なり、雄による長い求愛期間が必要であった。再交尾に応じた雌の交尾襄内の雄注入物質は、再交尾を拒否した雌のそれよりも少なかった。これらの結果より、翅の色彩と対応した雄の求愛行動の影響について考察した。
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