研究概要 |
3次元空間における樹冠の発達過程のシミュレーションモデルを完成させた。これは、Koike(1989)をもとにして3次元に拡張したものである。空間を10cm×10cm×10cmに区切り、その中のシュートの個体群密度として状態を表現する。また、このシュートの長さや方向の頻度分布も保持している。 実際の計算では、シュートの密度から、シュート当り葉量の実測値を用いて葉群密度を計算し、これから3次元空間内の光強度の分布を計算する。つぎに、光強度クラスごとの母シュートと娘シュートの長さの実測されたprojection matrixと、負の重力屈性や分枝角などを用いたシュート方向の推移行列とを用いて新シュートの展開を行い、次年のシュートの分布を求めている。計算時間は、今回購入した486DX2,66MHzのパーソナルコンピュータ(30MIPS,3MFLOPS)では、1つの樹冠の10年間の生長のシミュレーションに約20分必要であった。 このシミュレーションモデルを用いて常緑樹であるアカガシの樹冠の葉面積指数決定におけるシュートのprojection matrixと葉の生存率の影響の評価を行った。projection matrixは全体に係数をかけてpopulation増加率(λ)の異なったものを構成した。植物学的にみると、これはシュート伸長に変わりはないが、光合成による余剰生産が低いなどのために分枝数が少ない状態(あるいは光合成がさかんで分枝数が多い状態)に相当する。また、葉の生存率も実際より高いものと低いものなどを想定した。これらの要因を組み合わせてシミュレーションを行った結果、両要因とも樹冠の葉面積指数に影響を及ぼすことが明らかになった。 シュートのprojection matrixが樹冠の葉面積指数に大きな影響を与えることがわかったため、projection matrixを高い信頼性で推定する必要がでてきた。そこで、boot strap法を用いてprojection matrixのλの値の信頼性を検討してみた(Caswell 1989).その結果、信頼できるλを得るためだけでもかなり多くのサンプルが必要であることがわかった。
|