この研究の目的は、シュートや葉群のpopulation dynamicsのレベルからの樹冠の葉群量の調節機構を明らかにすることにある。当初、可能性として以下の5つをあげた。 (1)耐陰性だけによって調節され、樹冠の直下の光環境はシュートのpopulationを維持できる限界の光強度である。(2)flushing伸長を行う種では、シュートの増加率は冬芽を形成する前年の光環境によって制御されるため、シュートのpopulationを維持できる限界の光強度よりも暗い状態を作る。(3)古い葉が樹冠内に残存することによる。(4)支持器官の遮光。(5)シュート展開後の光依存的落葉による葉量の調整 このなかで、(5)に関しては早生樹を除く極相性の多くの樹種では生育期間の途中での落葉が起きないことが知られている(菊沢1986)。(4)の要因は普通は葉面積指数換算で0.7程度で(ランダム葉方向を仮定、相対照度70%くらい)全体の約1割に相当する影響しかないことが知られていて、中心的な要因ではない。また、実測値から見ても、(1)ではない(Koike 1989)。 (2)及び(3)の影響を評価するためKoike(1989)の2次元断面での樹冠発達モデルを発展させて3次元空間でのシミュレーションを行った。その結果、シュートのpopulationの増加率と葉の生存率がともに葉面積指数の制御に大きく影響することが明らかとなった。 異種の樹冠どうしの競争モデルから森林の種組成を明らかにしてゆく場合には樹冠の遮光量をかなり正確に再現する必要がある。このためには今回のシミュレーションの結果から見ても、シュートのpopulationの増加率を正確に推定できる程度のデータの精度が必要である。そこで、ブートストラップ法を用いて信頼性の評価を行った。
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