研究概要 |
本年度の調査では、面積約6ヘクタール(100m×600m)の調査区を設置し,その中の全てのツヤクシケアリ(Nanica yessinsis)の巣をアルミ杭によってマーキングし,マップを完成した。巣の総数は約120であり,この調査区の中に,2つの小区画(6m×12mと10m×5m)を設け,そこに現われる全てのツヤクシケアリとヤマクロヤマアリ(Formica lemani)の巣口をマップし,6月中旬から巣口の分布の変化を追跡した。ツヤクシケアリの巣口にはシーズンを通して,非常に安定的に存在するものの他に,きわめて一次的に現われそして放棄されるものがあった。またヤマクロヤマアリに占拠されるものも少数あった。ツヤクシケアリとヤマクロヤマアリの採餌活動の空間的および時間的分布を,まず概略的に知るために,6m×12mの小区画で,24時間アリの地表活動を調査したところ,ヤマクロヤマアリは,クロヤマアリ(Formica jappnica)でよく知られるのと同じ完全な昼行タイプであること,一方,ツヤクシケアリは,薄明薄暮タイプであり,両者とも全く夜間は活動しないことがわかった。さらに,ヤマクロヤマアリでは,働きアリが巣から遠方まで出歩くのに対して,ツヤクシケアリでは,働きアリの活動は巣口の周辺部に集中する傾向が強かった。さらに,調査期間中に1度,ツヤクシケアリの1コロニーによる,ヤマクロヤマアリの巣への攻撃とその絶滅が観察された。このような種間競争が実際に観察されることは稀であり,貴重な記録と言える。
|