これまでに一方向の性転換(雄性先熱または雌性先熱)を行うことが知られている魚類について、逆方向の性転換の有無を確認するため、以下の実験を行った。 一夫一妻で雄性先熱の性転換を行うことが知られているクマノミ類3種について、水槽内における雌2個体の同居実験、野外における強制移住による雌2個体の同居実験、および近接したイソギンチャクにおける雌単独化実験を実施した。雌同士は攻撃的・排他的であり、一方が雄に性転換して繁殖することはなかった。 一夫一妻で雌性先熱の性転換を行うことが知られているミスジリュウキュウスズメダイ・ホンソメワケベラ・カザリキュウセンについて、野外における雄個体の追跡を水槽内における雄複数個体の同居実験を行った。カザリキュウセンにおいては、雄から雌への性転換の兆候はこれまで認められていない。ホンソメワケベラとミスジリュウキュウスズメダイでは、水槽同居において小さいほうの雄の生殖突起が雌的に変化したが、繁殖は確認できなかった。これらの個体の一部は飼育を継続し、残りは標本にして生殖腺組織を検査中である。 一夫一妻のダルマハゼ・コバンハゼ類の双方向性転換の研究結果から、上記魚種も逆方向の性転換能力をもつと予想したにもかかわらず、雄性先熱のクマノミ類においてはその可能性は低く、雌性先熱の2種においてのみ可能性が示唆された。これまで双方向性転換が確認されているいずれの魚種でも、雌から雄への性転換のほうがより頻繁に起こることから、雄性先熱の進化要因自体が逆方向性転換の進化の妨げになっていることが示唆された。今後、この点についてさらに探究していく予定である。
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