食物連鎖網およびエネルギー栄養段階の構造とその力学的安定性に関する理論的研究は生態学の基本的課題の一つである。しかしその多様性と複雑性が障害となって、まだ未解決の問題として残されている。本研究ではシステム生態学の分野で最近導入された栄養段階モデルをダイナミカルモデルに改変してその力学的安定性を解析することにより、この問題を解明しようとしている。本年度の研究において熱力学的な制約を考慮に入れ、栄養段階の力学モデルを解析して得られた結果を、生産者の光合成能と消費者のエネルギー代謝能を基本パラメータとして、力学的に安定な各階層数の栄養段階の実現可能な領域を表わす栄養段階状態図(相図)として求めることに成功した。このモデルを拡張して結果の普遍性を確認するため栄養段階間の補食によるエネルギーの流れ関数の拡張によって相図の定性的特性が変わらないことを確かめ、エネルギー同化率の各栄養段階での相異が相図パターンに与える影響を調べた。さらに、外乱が栄養段階構造に及ぼす影響を調べるため、外部からの人為的操作(上部補食者の移入や捕獲、開発による生産者レベルの低下等)による栄養段階構造の変化を、この相図を基礎にして明らかにした。 同時にエネルギーピラミッド構造を呈する領域との関連性もこの相図の上に表現され、相互に密接な関係のあることが明らかにされた。この相図のパターンは個々の生態系にはよらない栄養段階の一般的な特性を与えていると期待できる。
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