本研究課題の研究目的で目指した6段階の研究計画のうち、1)栄養段階を通してのエネルギーの流れに関する適切な力学系を熱力学的制約を考慮に入れて設定する問題は、食物連鎖網のネットワークを再構成した栄養段階モデルを採用することによって成功し、2)各栄養段階数に応じて安定な平行状態の存在条件の解析結果を、3)生態系の環境条件と独立生産者の性質によってきまる総生産量と、消費者層のエネルギー代謝効率を基本軸とした相平面を用いて表現することによって、安定な生態系栄養段階についての状態図が得られることが明らかになった.重要なことは、この状態図のパターンが、用いた力学系モデルの詳細な性質には関係せず、生態系一般対して普遍的な性質を表していることが想定されることである. さらに、4)生態系のいわゆるエネルギーピラミッド構造と栄養段階の力学的安定性の間にはやはり密接な関係があって、力学的に安定な最高の段階数の栄養段階が実現しているときには、常にエネルギー栄養段階はピラミッド構造をもっていることが確かめられた.これも相図の上で明確な形で示すことができる. 平成6年度には、特に5)食物連鎖網あるいは栄養段階構造と生態系としてのエネルギー利用効率の関係を、マルガレ-フの説に準拠して調べたが、まだ、明確な関係を示すような結果は得られていない。これは今後に残された問題である.6)の人為的攪乱による効果については、栄養段階の下層でのエネルギーの外部への採取の効果は最上位の補食者の絶滅から始まってっ順次下方に及ぶとうことが明らかな形で示された. 以上本研究で得られた成果は、生態学の基本的な問題に新しい方向からの光を与えた知見を提示したものとして価値あるものと思う.
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