1.Eleocharisを自然状態で水中に生育させると、微細藻類が付着して繁殖するので、光合成系の研究結果が曖昧になるおそれがある。また、環境条件を厳密に規定するためにも、無菌状態の植物体を得ることが大切である。陸生型植物体の桿先端に生じた分けつ芽を滅菌して大型試験管の寒天無機培地に移植し、発根定着させることにより、陸生型と水生型の無菌植植物体を繁植させるin vitro生育システムを作ることができた。 2.温室で生育させた植物体を用い、陸生から水生型への移行に伴うC_4/C_3光合成経路の酵素活性の変動を調べた。E.viviparaではPEPカルボキシラーゼ、NADマリックエンザイムなどC_4経路の酵素活性が減少するが、RuBPカルボキシラーゼ、NADPトリオースリン酸デヒドロゲナーゼなどカルビン回路の酵素活性は変動しないこと(上野らの報告)を確認した。また、E.retroflexaは炭素代謝経路が殆ど研究されていないが、本研究により、陸生型のみならず水生型でもC_4経路の酵素活性が高いままであることが明らかになった。 3.これに対し、グリコール酸オキシダーゼ、カタラーゼ、セリン-ヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、ヒドロキシピルビン酸レダクターゼなど光呼吸経路の酵素活性はElocharis両種の陸生C_4型が低いのは予期した結果であったが、両種の水生型でもこれらの酵素活性が低いままであったのは意外な発見である。 4.E.viviparaが陸生から水生型に移行する過程でC_4からC_3型への炭素代謝変換を促進する主環境要因は何かを探るため、陸生型を1%CO_2下で生育させたところ、空気中の陸生型に比べ、C_4光合成経路の酵素活性が低下する傾向が見られた。この結果や他の環境因子の影響を調べるためには、無菌状態の生育個体を用いて検討する必要がある。
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