本研究で得られたおもな成果は次の通りである。 1.暗所でのクロロフィル合成に関与する遺伝子のうち葉緑体ゲノム上のchlL遺伝子とchlN遺伝子を、シダ類の2種(ワラビ・ホウライシダ)と針葉樹の2種(クロマツ・カラマツ)とからクローン化することに成功し、それらの遺伝子構造の特徴を明らかにした。(1)ワラビ・ホウライシダでは、chlL・chlNの両者とも、RNAエディティングを受けることによってはじめて機能し得る遺伝子産物が生じる可能性を見い出だした。この可能性をRT-PCR法によって検討した結果、ワラビのchlL遺伝子では、RNAエディティングが実際に起きていることが証明できた。(2)暗所でのクロロフィル合成能をもつクロマツに対して、カラマツは、暗所でのクロロフィル合成能力を失っている。しかしカラマツでも、クロマツの場合と同様に、chlLとchlNの両遺伝子とも機能しうる完全な構造が保持されていることが明らかになった。 シダ類と針葉樹において、chlL遺伝子とchlN遺伝子の転写パターンをノーザンハイブリダイゼーションによって分析し、両遺伝子の発現様式を解析した。(1)暗所でワラビ・ホウライシダの胞子から原糸体を生育させた場合、いずれの場合も、chlLとchlNの両者の転写産物が検出され、それぞれのコード領域から予想されるサイズであった。一方、転写産物の蓄積量は、それぞれを明所で生育させた場合と顕著な差がないことが明らかになった。以上の結果は、クロマツの芽生えにおいてもまったく同様であった。(2)カラマツを暗所で発芽させると、クロマツの芽生えの場合と違って、黄化芽生えになるにもかかわらず、カラマツでも、chlLとchlNの両遺伝子とも転写産物が検出された。しかし転写産物のプロセジングが異常となっていることがわかった。
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