ラン藻を致死温度に近い温度で短時間処理すると、その後一定期間は致死温度を越えた高温で生育できるようになる。また至適温度よりやや高い温度で一定期間生育させると、光合成の酸素発生の高温耐性が増大する。このようなラン藻の高温適応における熱ショックタンパク質の役割を解明するために、groEL遺伝子が破壊された形質転換体を作製し、その高温耐性の解明を試みた。 平成5年度にはラン藻における光合成の高温耐性獲得の機構を解析するとともにラン藻Synechococcus PCC7002から2種類のgroEL遺伝子(groEL-αとgroEL-β)を単離した。 平成6年度にはgroEL-β遺伝子をノックアウトした形質転換体を作製し、その高温における生育を解析して、以下の知見を得た。 1.野生株およびgroEL-βを破壊した形質転換体のいずれにおいても、熱ショック処理後、致死温度である48℃での生存率が増大する。しかし形質転換体では野生株を熱ショック処理した場合より生存率が低い。従ってラン藻Synechococcus PCC7002はgroEL-αのみでも熱ショック応答の能力を保持しているが、groEL-βはこれに付加的に作用して、その能力をさらに強めるものと判断できる。 2.44℃で生育させた場合の酸素発生の高温耐性は野性株とgroEL-βを欠損する形質転換体において差は認められない。また熱ショック処理しても酸素発生の高温耐性は変化しない。したがって、ラン藻Synechococcus PCC7002の熱ショックタンパク質、少なくともgroEL(チャペロニン60)は酸素発生の高温耐性には関与していないと考えられる。
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