遺伝学的、分子生物学的研究に適した単細胞性緑藻類であるChlamydomonasについて、分子生物学的手法によりフィトクロム様蛋白質をコードする遺伝子の探索を行なった。先ず、Fukuzawa等(1990)の方法によりmRNA文画を調製し、他植物種で既に知られているフィトクロム(緑藻類のMougeotiaのそれを含む)のアミノ酸配列間でよく保存されている部分に対応するオリゴDNAを合成しそれをプローブとしてノーザン・ハイブリダイゼーションを行ったがバンドは検出されなかった。つぎに、同様の配列をプライマーとして用い、ChlamydomonasのcDNAおよびゲノムDNAをテンプレートにしてPCR反応を行なった。なお、mRNAの調製法に関しては改良を加えた。また、内部標準として既報のChlamydomonasのCab遺伝子の配列を用いた。結果として、Cab遺伝子に関してもフィトクロム遺伝子に関してもほぼ予想されるサイズのDNA断片が増幅されてきた。しかしこれらの断片をクローン化し塩基配列を部分的に求めたところ、Cab遺伝子に関しては確かに既に報告されている配列が認められたが、フィトクロムに関しては既知のフィトクロム遺伝子とのホモロジーは認められず、フィトクロム遺伝子のホモログと見えた断片は何らかの非特異的反応の産物であることが示唆された。さらに、手持ちの抗フィトクロム単クローン性抗体を用いてChlamydomonasの粗抽出液をウェスタンブロット法により調べたが、交差反応を示す蛋白質は認められなかった。以上をまとめると、現状ではChlamydomonasのフィトクロム様蛋白質の遺伝子を検出することは困難と言わざるをえない。この結果はフィトクロム様蛋白質の存在を否定するものではないが、今後この方向の研究を進めるにはなんらかの新しいアプローチが必要と思われる。
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