筆者は、ミカヅキモ(Closterium ehrenbergii)の細胞をロ-ダミンファロイジンで染色することによって葉緑体の分裂狭窄部を一周する蛍光像が観察されることを示し、アクチン繊維が葉緑体のキネシスに関わっていると考えられることをすでに報告した。本研究では、ミカヅキモ葉緑体の分裂狭窄部の微細構造を連続切片の電顕観察によって詳細に調べた。その結果、分裂狭窄部の周囲に電子密度の高い繊維構造が存在することが明らかになった。この繊維構造は葉緑体外包膜の細胞質側に密着または極く近くに接していた。しかし、高等植物の二重の葉緑体分裂リングにおけるような、内包膜のストロマ側の環状構造は認められなかった。さらに、ミカヅキモでは3本またはそれ以上の繊維構造が平行して狭窄部を巻いていた。これらの繊維構造は葉緑体分裂リングと考えられるが、以上の観察結果は、ミカヅキモの葉緑体分裂リングが、これまでに観察された葉緑体分裂リングとは異なるタイプのものであることを示唆している。上記の繊維構造はロ-ダミンファロイジン染色像に対応するものと推察されるが、アクチン様タンパク質からなっていることを示す免疫学的証拠は今までのところ得るに至ってていない。今後の研究課題として、現在さらに検討中である。 また、小胞体(ER)は葉緑体のほぼ全体を覆っているが、葉緑体が分裂を開始すると、分裂狭窄部にはERが認められなくなる。したがって葉緑体分裂と平行してERが葉緑体分裂狭窄部で分裂または分配されていると考えられる。また、葉緑体分裂と並行して核が葉緑体分裂狭窄部に移動、進入してくる。本研究では、核の移動には核の前方に位置する微小管集合体が関与していることを示すとともに、微小管集合体の立体構造を連続切片の再構成によって明らかにした。 以上の結果は、単細胞葉緑ミカヅキモの細胞において、葉緑体の分裂サイクルと他のオルガネラのサイクルの間の精緻な連係とそれを制御する何らかの機構が存在していることを示している。
|