本研究はサケ科魚類の神経葉ホルモンであるバソトシンとイソトシンの遺伝子の発現調節領域の構造解析を目的とするものである。サケ科魚類が4倍体のためにそれぞれの遺伝子はIとIIの2種類が存在する。今年度はバソトシンI(VTI)についての解析を行った。すでに得られている数個のゲノム遺伝子のクローンから、その上流域を含むクローンを得るためにVTIの5'側に特異的な合成プローブを作成し、サザンブロット法で目的のクローンを選択した。制限酵素マッピングにより、このクローンは上流域の塩基を2Kbp以上含むことが分かった。今年度は全配列を決定するには至らなかったため、来年度も解析を進める。 もう1つのゲノム遺伝子解析の目的である分子進化の解析は、まだ遺伝子配列が決定出来ていないので、すでに報告されている神経葉ホルモンの前駆体遺伝子のcDNAの配列を用いて神経葉ホルモンの分子進化系統樹の作成を試みた。近隣節約法と最尤法で解析を行った。計算には長谷川と足立が開発したアミノ酸配列による分子進化系統樹の解析プログラムを用いた。その結果、従来の説とは異なる知見が得られた。魚類のイソトシンからほ乳類のオキシトシンが分かれたとする従来の説に対し、今回の解析では魚類のバソトシンからまず両生類のメソトシンが分かれ、そこからほ乳類のオキシトシンが分かれる系統樹が作成された。解析中の魚類の神経葉ホルモンのゲノム遺伝子と報告されているほ乳類のものとを比較すればより確かな知見が得られると期待される。
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