本研究はサケ科魚類の神経葉ホルモンであるバソトシンとイソトシンのゲノム遺伝子の発現調節領域の構造解析を目的とし、平成6年度の成果をもとに研究を更に進めた。昨年得たシロサケのバソトシンIの遺伝子のクローンについて、5′上流域2kbpを含んだ全長3.5kbpの制限酵素断片の塩基配列解析をおこなった。また、イソトシンIについては、5′上流域3Kbp以上とイソトシンIの全長を含む17Kbpのクローンをゲノムライブラリーより選択出来た。 バソトシンIの遺伝子は2つのイントロンで区切られた3つのエキソンからなる構造をとり、この構造は哺乳類のバソプレシン遺伝子と同様であった。5′上流域を哺乳類と比較した結果、この遺伝子の特徴は、次のようであった。1)TATAボックスより上流でAP-2がみられない。2)CATボックスが複数存在する。3)エストロジェン受容体等の結合部位となる配列が存在する。4)哺乳類のオキシトシン遺伝子にはあるがバソプレシン遺伝子にはない特徴的な配列が存在する。また、ニワトリのバソトシン遺伝子の上流域とも比較し、その相違点を明らかにした。一方、イソトシンI遺伝子は全長の塩基配列決定までに至らなかったが、部分的解析で少なくとも2つのイントロンと3つのエキソンを持つことがわかった。ホワイトサッカーでは哺乳類と異なり、イソトシン遺伝子にイントロンが無いと報告されている。シロサケのイソトシン遺伝子はホワイトサッカーとは違っていて、魚類のイソトシンも種によっては哺乳類のようにイントロンを持つことが明らかとなった。 以上の成果は、神経葉ホルモン遺伝子の分子進化の研究を、昨年度行った前駆体cDNAのレベルだけでなく、ゲノム遺伝子のレベルまで発展させる基礎となる。また、発現調節領域の調節因子系の解析により、動物間での発現調節の違いが明らかとなり、ホルモン作用の調節機構の解明にもつながると期待される。
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