本研究はサケ科魚類の神経葉ホルモンであるバソトシン(VT)とイソトシン(IT)のゲノム遺伝子の発現調節領域の構造解析と解析結果を使った分子進化系統樹の作成を目的とする。サケ科魚類が4倍体であるため、2種類ある遺伝子のうちのIの解析をおこなった。系統樹は前駆体cDNAについておこなった。 シロサケのVT-Iの遺伝子は2個のイントロンと3個のエキソンからなる構造をとり、この構造は哺乳類のバソプレシン遺伝子と同様であった。5′上流域を哺乳類と比較した結果、プロモーター領域の転写開始構造に違いがみられ、エストロジェン受容体等の結合部位となる配列や、哺乳類のバソプレシン遺伝子にはない特徴的な配列が存在するなどの特徴が明らかとなった。また、IT-I遺伝子は全長の塩基配列決定までに至らなかったが、部分的解析で少なくとも2つのイントロンと3つのエキソンを持つことがわかった。ホワイトサッカーでは哺乳類と異なり、IT遺伝子にイントロンが無いと報告されている。シロサケのIT遺伝子解析により、魚類のITも種によっては哺乳類のようにイントロンを持つことが明らかとなった。一方、分子進化系統樹の作成は、神経葉ホルモンの前駆体遺伝子cDNAからのアミノ酸配列で、近隣節約法と最尤法を用いておこなった。そして、従来のホルモンのアミノ酸配列の比較による説とは異なる結果を得た。魚類のITから哺乳類のオキシトシンが、VTからバソプレシンが分岐したとする従来の説に対し、魚類のVTから両生類のメソトシンが分岐し、そこから哺乳類のオキシトンが分岐したとする系統樹が作成できた。 神経葉ホルモンの発現調節領域の調節因子系が魚類で異なることを明らかにし、イントロンの存在が魚種により違うことがわかった。そして、前駆体遺伝子の構造の特徴が重複や遺伝子変換の良いモデルであり、その系統樹の作成で新たな知見が得られた。これらの観点からゲノム遺伝子での解析を進めれば、動物間での発現調節の違いや遺伝子構造の進化からホルモン作用の調節機構の解明にもつながることが期待できる。
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