ノンスパイキング介在神経のシナプス統合機構において、その樹状突起膜の伝達物質受容体が果たす役割を解明する目的で、アメリカザリガニの腹部最終神経節で同定されるLDS細胞の感覚入力シナプス接続における伝達物質と受容体の生理性質を神経生理・薬理学的実験により調査した。標本には単離腹部神経系を用い、第3根感覚神経軸索束の電気刺激に対するLDS細胞のシナプス応答を細胞内記録法により調べた。 正常の生理食塩水の代わりに、Ca^<2+>を除き、Mg^<2+>を5倍に高めた食塩水を潅流すると、数分以内に10〜20mVの脱分極が観察されると共に、感覚刺激に対するシナプス応答が消失した。正常な生理食塩水に戻すと、元の静止電位レベルに再分極し、シナプス応答も回復することから、Ca-free、high-Mg食塩水の潅流によって、神経節内での化学的シナプス伝達が可逆的に阻害されると考えられる。LDS細胞はこの条件下で、いわば薬理学的に単離されているとみなすことが出来る。過分極性定電流注入実験により、Ca-free、high-Mg食塩水の潅流にともなうLDS細胞の樹状突起の入力抵抗変化を調べたところ、有意な違いは認められなかった。LDS細胞が入力シナプスから単離された状態で、アセチルコリンのアゴニストであるカルバミルコリン100μMを生理食塩水と共に潅流すると、LDS細胞の脱分極(10〜30mV)が観察された。Ca-free、high-Mg食塩水による脱分極を加えると、元の静止電位から20〜40mVの脱分極となる。この脱分極は、正常な食塩水潅流によって消失した。また、脱分極にともない、入力抵抗の減少が見られた。 以上の結果は、LDS細胞がアセチルコリンに対する受容体を持っており、アセチルコリンによって陽イオンチャンネルが開くことを示唆している。次年度は、この受容体がどのような薬理的性質を持つかを調査する予定である。
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