ノンスパイキング介在神経のシナプス統合作用において、その樹状突起膜の伝達物質受容体が果たす役割を解明する目的で、アメリカザリガニの腹部最終神経節で同定されるLDS細胞の感覚入力シナプス伝達における伝達物質受容体の生理性質を、神経生理・薬理学的実験により調査した。標本には単離した腹部神経系を用い、第3根感覚神経束の電気刺激に対するLDS細胞のシナプス応答に各種薬物が与える影響を、細胞内記録法を用いて解析した。 Acetylcholine(ACh)およびその一般的作動薬であるCarbacholを投与すると、LDS細胞では脱分極がみられ、シナプス応答は減少した。なお、記録用電極は常にLDS細胞の中心線近辺の樹状突起肥厚部に刺入した。生理食塩水の潅流により、膜電位、シナプス応答とも回復した。シナプス応答の減少は、電流注入によって膜電位をもとの静止電位レベルに戻しても観察された。また、Ca^<2+>除去/高Mg^<2+>条件下で、ACh作動薬を投与しても同様の結果が得られたことから、LDS細胞の樹状突起膜はACh受容体を持つと結論された。シナプス応答の減少は、作動薬が持続的に存在することによる受容体の脱感作によると考えられる。ただし今回の電極刺入部位では、イオンチャンネル解放に伴う膜コンダクタンスの上昇は確認されなかった。次に、脊椎動物のニコチン型ACh作動薬として知られるTetramethylammoniumの効果を調べた結果、Carbacholなど同様の結果を得た。しかし、ムスカリン型ACh作動薬であるMuscarine、Oxotremorine、Pilocarpineの投与に対しては、シナプス応答の減少は見られたが、いずれの場合も膜の脱分極は観察されなかった。これらの結果は、LDS細胞樹状突起膜上のACh受容体は、作動薬感受性においてニコチン型と同様の特徴を持つことを示している。ムスカリン型ACh作動薬は、LDS細胞に直接働くのではなく、前シナプス的に伝達を抑圧すると考えられる。
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