研究課題
これまで、ウニ幼生の遊泳行動に対し、セロトニンとドーパミンの2種の神経伝達物質が異なる作用をする事を明らかにしてきた。この現象を繊毛運動のレベルで調べるために、幼生を固定しつつ外液を交換できる実験システムを構築し、一本の繊毛の動きを捕らえ、運動波形に対する神経伝達物質の効果を調べた。その結果、ドーパミンを与えることによって、繊毛打の方向が徐々に変化し、最終的に繊毛打方向が反転する反応(繊毛反転反応)が引き起こされることがわかった。さらにこの反応が、電気刺激による繊毛逆転反応の方向も逆転させることを見いだした。屈曲運動の詳細な解析により、反転反応は、運動機構(細胞本体も含めて)が回転するようなものではなく、繊毛軸糸内部での活性部位の回転(変移)によることが強く示唆された。一方、セロトニンは、明かな運動活性の上昇をもたらすものの、運動波形そのものには大きな変化を引き起こさないことがわかった。このことは、ふたつの神経伝達物質は異なる(セカンドメッセンジャーによる)シグナル伝達の機構をもって、繊毛運動の制御を行っていることを示す結果である。本研究の施行により、これまで知られていなかった、繊毛運動制御における新しいシグナル伝達経路が存在することが明かとなった。その中でも、ドーパミンに起因する伝達経路は、繊毛・鞭毛運動を構成する重要なステップである「滑り-屈曲」の変換機構を到達点としたものであり、これまでアプローチが難しかったこの機構の研究に新たな視点を加えることになった。また、ドーパミンによって誘導される繊毛反転反応は、何が繊毛打における空間的極性(beat plane)を決定するかという問題について新たな可能性を示す結果となった。
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