ショウジョウバエ視細胞におけるオプシン(35kDa)の合成は、種々の系統から成る制御を受けていると考えられる。本研究では、この合成制御機構に関して(1)オプシン分子自身の関与、(2)小胞輸送系の関与、(3)光信号変換系との関連の3つを柱に、それを細胞レベルで統一的に理解することを目的として仕事を進めている。まず(1)に関しては、オプシンのペプチド鎖本体に変異のある突然変異体(ninaE)を用いることにより、オプシン分子の正常なプロセシングが、それ自身の構造変異によりブロックされ、40kDa合成中間体を生じるばかりでなく、場合によっては、生じた変異ペプチドが、正常なペプチドのプロセシングをも阻害することを明らかにした。また、オプシンの糖鎖付加部位を除いた変異蛋白質をin vitroおよびin vivoで発現させることにより、オプシンのN末端に位置する糖鎖が、翻訳時あるいは翻訳直後の段階で機能し、オプシンの合成中間体を安定に効率よく合成することに寄与していることを示した。次に(2)に関しては、小胞輸送に不可欠なrab蛋白質のcDNA断片を十数種クローニングし、そのうち3種の全配列を決定した。これらの配列の中には、既知のrab蛋白質と相同性の高いものだけでなく、これまでにまだ見つかっていない新たなrab蛋白質も含まれていた。(3)については、光信号変換系を高度に活性化することにより、オプシンの合成が37kDa合成中間体の段階で阻害されることを見出した。これらの結果から、ショウジョウバエのオプシンは翻訳後、40kDa、37kDa、の合成中間体を経て35kDaの成熟オプシンとなること、この成熟過程の各段階に、オプシン自身の分子構造や、視細胞の信号変換過程が関与していることなどが明らかとなった。次年度はこれらの基礎的知見をもとに、rabや信号変換系に働く機能蛋白質の相互作用に重点を置いて研究を続ける予定である。
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