ショウジョウバエ視細胞におけるロドプシンの輸送・局在化機構を解明するため、(1)オプシンの構造の重要性、(2)細胞内小胞輸送に関与する低分子量G蛋白質の役割、(3)光情報変換系との相互作用、の3つに重点を置いて研究を行った。その結果、(1)点突然変異によるアミノ酸置換や発色団の欠損によってオプシンの高次構造を変化させたハエでは、正常なオプシンのプロセシングが行われず、高マンノース型の糖鎖を持った翻訳直後の未成熟オプシンの形で蓄積することがわかった。また、ショウジョウバエのオプシンには2ヶ所のN結合型糖鎖の付加可能部位があるが、このうちN-末端に近い部位に実際に糖鎖が結合し、翻訳後のペプチド鎖の安定化若しくは翻訳反応の促進に寄与していること、この糖鎖が次にプロセシングを受けることがオプシンの合成・輸送の進行に重要であることを示した。(2)小胞輸送に関与するRab蛋白質のcDNA断片をショウジョウバエ網膜から14種クローニングし、そのうち4種の発現が、カロチノイドの有無により変化することを明らかにした。また、この4種のうちの1種は、これまでに見出されていない新しいRab蛋白質であることがわかった。(3)視細胞を強い光で刺激すると、その崩壊が引き起こされる。この崩壊は、光による光受容膜構造の異常な変性だけでなく、オプシン合成の阻害にも起因することを明らかにした。そして、オプシンの合成阻害は、光情報変換系の過度の活性化によってrERから光受容膜へのオプシンの輸送およびプロセシングが阻止される結果起こるものであることを、生化学的、組織学的に示した。この結果は、光情報変換系が蛋白質の合成・輸送系の制御にも関与していることを示唆している。
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