1、昆虫界における視物質発色団としての3-ヒドロキシレチナ-ル(3-OH-RAL)の光学異性体分布 3-OH-RALを視物質発色団として利用する昆虫の複眼中の3-OH-RALの光学異性体を調べた。その結果、トンボ目、半翅目(セミ)、脈翅目(ウスバカゲロウ)、鱗翅目(チョウ、ガ)、双翅目・長角亜目(カ)、双翅目・短角亜目・直縫群(ミズアブ)ではすべて、(3R)-3-OH-RALのみが使われているが、双翅目・短角亜目・環縫群(ハナアブ、ショウジョウバエ、クロキンバエ、寄生バエ)では、(3S)-3-OH-RALが選択的に視物質発色団として利用されていることが明らかにされた。植物界で合成される3-OH-キサントフィル(ルテイン、ゼアキサンチン)のβ-イオノン環は(3R)体のみであることから、3-OH-RALを視物質発色団とする昆虫の大部分は、植物界由来の3-OHキサントフィルを直接利用していることが示唆される。これに対し、双翅目・環縫群に属すハエは、(3S)-3-OH-β-イオノン環を代謝的に生成して視物質発色団として利用していることが示された。 2、ショウジョウバエにおける(3S)-3-OH-RALの生成 イ-スト培地にall-trans形レチナ-ルあるいはβ-カロチンを加えて飼育した際、ショウジョウバエが水酸化反応によって合成する3-OH-RALの光学異性体を再度検討した。その結果、all-trans形3-OH-RALにおける(3S)体の割合は、all-trans形レチナ-ルを与えた場合には約95%、β-カロチンを与えた場合には約90%といずれも高い特異性で(3S)体が生成されることが確認された。11-cis形3-OH-RALにおける(3S)体の割合は、レチナ-ルを与えた場合ほぼ100%であったのに対し、β-カロチンの場合約95%となり、レチノイドを出発物質とするときとカロチノイドを出発物質とするときでは視物質発色団の生成代謝経路に違いのあることが示唆された。
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