1.Achatin-Iとfulicinの抗体を用い間接酵素抗体法で、アフリカマイマイの中枢神経節、神経、心臓及び陰茎牽引筋におけるペプチドの局在を免疫組織化学的にしらべた。また、同定されたペプチド性ニューロンの発火にともなう筋肉の反応を電気生理学的にしらべた。これらの結果から、achatin-Iは主に内臓神経節のニューロンで合成されて心拍動の調節に関与し、fulicinは主として右の側神経節や足神経節に存在し、陰茎牽引筋の収縮調節に関与する可能性が示された。 2.Achatin-Iのアナログ37種類、fulicinのアナログ40種類を用い、それぞれ心筋または陰茎牽引筋を生物検定系として構造-活性関係をしらべた。両ペプチドに共通して得られた結果は、D型アミノ酸をL型アミノ酸に置換したときには活性が1000分の1から10000分の1に低下するが、D型アミノ酸を別の近似のD型アミノ酸に置換したときは活性は殆ど変わらないこと、また、N末から2番目以外のL型アミノ酸をD型に換えても活性は低下することなどであった。これらの結果から、N末から2番目のD型アミノ酸の重要性が強く示された。 3.ウエスタンブロット法による解析を行なった結果、約25kDのところにfulicinの抗体に反応するバンドがみられた。このバンドは、非免疫血清や、fulicinで予め処理しておいた抗体には反応しなかったが、fulicinのD-Asn^2をL-Asn^2で置換したアナログで処理した抗体には反応した。このことは、fulicinが前駆体の段階でL型からD型への変換を受けている可能性を示唆している。神経節内の細胞体がfulicinの抗体で細胞質全体が一様に染め出される事実はこのことを支持しているように思われる。 以上の研究結果は、D型アミノ酸を有する神経ペプチドの動態について重要な知見を与えるものと考えられる。
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