本研究は視覚系の概日時計支配の神経機構および視覚情報処理の時刻依存性を明らかにするため、(1)特定の視覚介在ニューロンを機能的・形態学的に同定し、(2)その視覚刺激に対する応答性の概日リズムを明らかにすること、さらに(3)概日時計による修飾に関わる神経伝達物質の特定試み、以下の結果を得た。 1.蛍光色素を充填したガラス微小電極による細胞内電気活動記録、および細胞内染色法により、視葉視髄部に分枝を持つ視覚性介在ニューロンを約30本同定した。それらは、形態的な特徴からI)視髄内のみに分布するもの、II)視髄内に細胞体を持ち脳に投射するもの、III)視髄内に細胞体を持ち反対側の視髄に投射するもの(視髄巨大ニューロン)、IV)脳幹部に細胞体を持ち視髄に投射するもの、などに分類された。 2.金属電極による細胞外電気活動記録により、視葉視覚性介在ニューロンの概日リズムを解析した結果、ほとんどのニューロンがその光応答性および自発活動が夜顕著に増加する概日リズムを持つことが分かった。さらに吸引電極による単一ニューロン活動の長時間記録を行い、視髄巨大ニューロンのうち3本の概日リズムの特性を明かにした。それらは光パルスに対する応答はいずれも主観的夜に増加し、昼の数十倍から100倍に達した。自発放電には夜増加するものと、逆に昼増加する2つのタイプがあった。 3.HPLC-ECDを用いた分析から、視葉内セロトニン量が顕著な日周変動をもつことが明かとなり、概日時計出力系の神経伝達物質である可能性が示唆された。セロトニンが視覚性ニューロン活動に及ぼす影響を調べた結果、セロトニンは視覚性ニューロンの感度を顕著に低下させることが分かった。 以上の結果より、視葉概日時計は視葉内の視覚性介在ニューロンの感度を夜間に増加させ、昼低下させるが、その作用にはセロトニン性ニューロンが係わっていることが示唆された。
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