研究概要 |
私達はごく最近,トコブシの口の筋肉に多量に含まれる組織ヘモグロビン(ミオグロビン)が,いわゆるヘモグロビン遺伝子から生じたものではなく,ヘムを含む機能的に全く異なるトリプトファン分解酵素の一種,インドールアミン二原子酵素添加酵素(IDO)から機能的に収束進化し,トコブシの中ではヘモグロビンとして機能していることを強く示唆する結果を得た. 本年度はトコブシ・ヘモグロビンとIDOの関係を遺伝子レベルで明確にするために,トコブシヘモグロビンの15329bpから成る全ゲノムDNA構造を明らかにした.この遺伝子は14エキソンと13イントロンから構成されており,そのイントロン・エクソンの配置はヒトのトリプトファン分解酵素IDOのものと非常に良く似ていた.即ち,7箇所のスプライス部位はトコブシ・ミオグロビンとヒトIDO間で正確に保存されていた.このことは,これらのイントロンの場所が少なくとも6億年もの間保存されていることを示している.更に,トコブシには5つの余分なイントロンが挿入されていた.また,トコブシの遺伝子の5′上流域にはヒトのIDO遺伝子同様,インターフェロン刺激応答エレメント(ISRE)様配列が存在し,トコブシにおいてもインターフェロン様タンパク質が存在している可能性が示唆された.これら事実はトコブシ・ヘモグロビンがIDO遺伝子から進化したことを明確に示している. これの結果は,昨年7月,アメリカ・ニューハンプシャー州プリマス大学で開かれた酸素結合タンパク質に関するゴ-ドン会議(1994 Gordon Research Conference)で口頭発表された.また現在,論文発表準備中である.
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