ダイニンは鞭毛運動のモーターでありモーター活性とATPase活性をもつ重鎖と中間鎖及び軽鎖とからなる複雑な構造をしている。本研究ではウニ繊毛の外腕ダイニンbeta重鎖のクローニングに引き続き、中間鎖3のクローニングを行ない597残基のアミノ酸よりなる未修飾分子量68kDaの酸性蛋白質であることを明らかにした。またマウスの精巣からダイニン軽鎖の可能性のあるCa結合蛋白質カルトラクチン/CDC31のクローニングを行ない、未修飾分子量20kDaのカルモヂュリンと似た4つのCa結合能のある蛋白質であることを明らかにした。 本研究で中間鎖3のcDNAクローニングに成功したことにより、これがクラミドモナスのoda6、脳の細胞質ダイニンの74kDa蛋白質と同じであることを明らかにした。今後は、このcDNAをやはりバキュロウイルスの系で発現させ、試験管内でダイニン重鎖との結合性、重鎖のATPase活性に与える影響について研究を進めたい。また残された2つの中間鎖のcDNAクローニングを行ない、中間鎖に共通した一次構造がでてくるかどうか明らかにしたい。 本研究の結果カルトラクチン/CDC31がダイニンファミリーの軽鎖である可能性がでてきた。細胞周期はG1、S、G2、及びM期からなる自己複製の過程と、増殖を停止したG0期とからなる。卵成熟因子MPFがCDC2/サイクリンより構成され、真核生物全般で保存されているという発見により、細胞周期は分子のレベルで総合的に研究されている。しかし細胞周期の研究であきらかとなった登場因子が実際にM期で出現し染色体を動かしているキネシンや細胞質ダイニンを含めた運動モーターといかにからみあい、活性化させているかという問題については手付かずの状態である。CDC31は酵母の分裂紡錘極体の形成に関与しており変異体はG2期の状態で停止している。酵母でみつかった細胞周期に関連する遺伝子が本研究ではじめて運動モーター蛋白質と結びついたことになる。今後は染色体の運動モーターである細胞質ダイニンとCDC31との関連を研究することによってM期での分裂装置形成の過程を明らかにしていきたい。
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